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オーバーハンドパス(3/5)

親指と人差し指の役割はだいたい分かって来ましたが、他の指の働きは?

  再び米山選手の画像ですが、正面と側面の画像で額を通る黒い線と中指を通る赤い補助線を引いてみました。正面の画像は手が少しばらついていますが、正面と側面で黒線と赤線はほぼ平行になっています。中指は手の運動の軸です。手を横に開閉する時は中指を中心に行われます。中指と額とを平行に合わせる事は視線が運動の軸と直交する事を意味します。「キャッチ」「コントロール」という運動パフォーマンス上の問題は常に視線(眼の機能)が中心となります。視線が安定することはその後のプレーの善し悪しに関わって来ます。
  ボールを受ける時の手の形として「両手で三角形(おにぎり)の窓を作り、ボールを窓から覗くようにする。」という説明が昔からありますが、中指を額に平行にすると窓は三角形よりは「ハート型」となります。実際そのように教えている指導者の方も多いようです。

中指の重要性に関してこんな話しもあります。左は奈良東大寺の大仏様です。右手の中指を前に突き出すようなポーズをとっています。(この手の形は施無畏印(せむいいん)と呼ばれる印相です。)
かつて、ヘレンケラー女史が来日して奈良の大仏様を訪れた折りに案内係がこの手のポーズについて言葉で説明したところ、逆に「どうして中指を前に出しているのですか?」とヘレンケラー女史に質問されて答えに窮したそうです。すると「私たち目の不自由な者は物に手を触れる時に必ずはじめに中指で触ります。中指が最も感覚に優れているからです。大仏様も民衆の心の声に触れようとして自然と中指が前に出てくるのだと思います。」と意見を述べられ、案内係の人を大いに感心させたそうです。中指はこのように感覚に優れた指ですから、ボールに触れる時などはボールの勢いや回転を知覚するセンサーの働きをしているのだと考えられないでしょうか?この指を額に平行に合わせておく事はセンサーを上手く使うことにつながると思っています。

  残りの薬指と小指に関してはボールが手からこぼれ落ちないように「脱線防止」のために添える指と考えてよいかと思います。「いやもっと重要である」とお考えの方がいらっしゃればご意見をお願いします。

  各指の役割だけでなく、指その物が持つ構造や機能もオーバーハンドパス運動には関わっています。きれいなパスでは指がキレよくボールを放つ感じがします。このキレのよい感じは指がボールキャッチにより背屈されるときの筋と腱の弾性伸張反射による自動的な掌屈運動によると思われます。

腱の弾性は腱が持つゴムの様な性質で伸ばされる事によりまた縮む作用です。伸張反射は腱と筋にある反射の受容器からの信号により腱が伸張された反対の方向に収縮する働きです。ともに頭の意識に登るよりも素早い反応ですから、手の中に入ったボールは再び手から弾かれるように出ようとします。左の図のように自分の手で指に急に背屈の力を加えると元に指が元に戻る動きで確認出来ます。

  この動きに同期するように指に力を入れてやるとキレが良く遠くに飛ぶパスが可能になります。手首を硬くして構えるとこの作用は 少なくなりますから、どうしても手にボールが「バチッ」とあたる感じとなります。これではコントロールされたボールは送れません。ボールキャッチの手首はリラックスして構えるようにします。手に入った感覚があった後にボールに力を入れると効率よくボールに力が加わります。

  この指の動きは親指の向きと無関係ではありません。1ページ目に載せたボールを親指の外側に当てる当て方ではボールが指全体にぶつかります。一方、親指が前に出た構えでは親指と人差し指(+中指)のなかにボールを招き入れますからボールは手首と指の背屈をしやすくさせます。弾性という指の腱の持つ「構造」と反射という筋の持つ「生理学的特性」の二つの体の特性を上手く利用する事により上手な運動が可能となっています。


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