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オーバーハンドパス(2/5)

  オーバーハンドパスでやっている事は非常に短時間で行われるボールの「キャッチ&スロー」であるといえます。空中を飛んでいる勢いのあるボールを「キャッチ」して減速して、別の方向に勢いを与えて「スロー」するわけです。「キャッチ」はバスの上手い、下手を分ける大きな特徴です。バレーボールを始めて間もない人のオーバーハンドパスは飛んで来るパスボールに上手く合わせる事が出来ず、少し強いボールを弾いたり、思いがけない方向のボールではスローしたボールではぶれてしまいます。長くバレーボールをやっていると飛んで来るボールの勢いに左右されず思い通りのパスを送れるようになります。この鍵はキャッチの過程にあるといっても過言ではないと思います。オーバーハンドパスでも「始めよければ終わりよし」と言えます。


  物の持つ勢いをあらわす指標となる量で質量速さを掛け合わせた量を物理学では運動量と呼んでいます。赤い矢印をボールが向かってくる時のボールの運動量、青い矢印はボールを飛ばした後のボールの運動量とします。前方へのパスは運動量の方向が180度変化します。運動量を変化させるのは力と時間の積の力積と呼ばれる物理量ですがオーバーパスではボールは力を手からボールの進行方向に受けて運動量を変化させます。

  [飛んでいくボールの運動量][ 向かってくるボールの運動量][手の力]×[力が作用する時間]

と数式であらわされます。右辺は掛け算になっていますから、[手の力]を大きくすれば[力が作用する時間]を小さくできますし、[手の力]を小さくすれば[力が作用する時間]は大きくなってしまいます。
  [手の力]を大きくしたパスは一般に「突くパス」あるいは「弾くパス」に相当します。また[力が作用する時間]を大きくすると「ためがあるパス」となりますが、いくらでも大きく出来る訳ではなくある程度を超えると「ホールディング」の反則になってしまいます。

  向かってくるボールのスピードと方向はボールによって千差万別です。ボールが回転していることも考えなければなりません。飛んで行く方向が違う場合にはスピードの切り変わりで瞬間的にボールのスピードがゼロとなる点があります。先程、「キャッチ」と書いた過程は千差万別で飛んでくるボールを素早くスピードゼロの状態にするまでと考える事が出来ます。

  この過程を上手に行うためには指をボールを受動的に手でただ包むだけではボールを「キャッチ」の短時間に様々な勢いのボールに対応が出来ません。指はもっと積極的にボール減速するように使わなければなりません。このためには何と言ってもボールに向かう時の指の構えが重要です。



  上のイラストはアメリカのバレーボール教本からです。
   (「AN UNDERSTANDING OF THE FUNDAMENTAL TECHNIQUES OF VOLLEYBALL」より)
  オーバーハンドパスにおける親指の位置と手首の角度とを述べたものです。この本では「親指を引いて(thumbs back)手首は平行から45°までの角度でボールをキャッチしなさい」と書いてありました。実際やってみると両手で籠を作るようにしてボールをそれこそ捕球するような構えです。またthumbs forwardと呼ばれるボールに向かって親指を突き出す構えは「NEVER」と書いてあり、やってはいけないとしてありました。しかし、これは本当に「NEVER」でしょうか?実際のプレー写真を見てみるとどうでしょうか?


上は富士フィルムの米山選手で左はJTの下村選手です。二人ともボールに向かって親指が前に出ています。つまり「thumbs forward」となっています。また、下村選手の画像で分かるようにボールを親指と人差し指、中指ではさむようにキャッチしています。両選手ともアメリカの指導書では否定されているthumbs forwardを積極的に行っているわけです。親指が前に出ている事は人差し指と対にして考えると分かりやすくなります。ボールを積極的に迎えにいき、はさむ事で素早いキャッチが可能でボールは早めにスピードゼロとなるのでそのあとのスローも素早く、また安定します。


左は世界選手権に出場した世界のセッターのトスアップの画像です。親指が前に出て、人差し指とともにボールをはさみみにいくように手を使っている選手が多いことがよく分かると思います。また選手の中には親指がIP関節で過伸展している(逆に反っている)者もいます。今、「はさむ」という表現を使いましたが、実際はボールを親指の上に乗せて人差し指をそえる感じだと思います。親指を前に出すことを強調し過ぎると突き指しやすかったり、ハンドリングにおける手首の柔軟性を阻害してしまう可能性があります。野球でグローブでボールをキャッチする時を考えると分かりますが、自然と親指はボールの方向に向かいます。このように親指はあくまでもボールに自然と向かうのであって決して「突き出す」のではない事に注意して下さい

  上の様々なプレーヤーの写真から
「キャッチには親指と人指し指(+中指)のつかみ動作(対立運動)を積極的に行う」
と言えます。もっと平たく書くと
「オーバーパスでは人指し指(+中指)と親指でボールをつかむように迎えに行け」と言えるでしょう。

  バレーボールの教本は多く出ていますが、優秀なプレーヤーのプレーやプレー写真をよく見る事の方が多くことを学べる場合もあります。また、教本には実際のプレーヤーがやっていない事を書いていることもあります。


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