私が彼を一流の指導者と呼ぶ理由

『魂』を揺さぶる読み物

私が彼を一流の指導者と呼ぶ理由・・・by芭麗人さん

私の県でもこの8日にいよいよインターハイの地区大会があり、学校によってはそれが三年生最後の戦いとなります。この連休中はどこのチームもそれに向けて合宿そして練習試合と最後の調整を行っています。

私は現在チームを持っていませんが、たまたまお誘いがありましたので、ある練習会場に出かけてそんな気合の入ったゲームを楽しく観戦していました。

その中のA高校はベテランのB先生がこの春よりチームを見ることになりました。しかしチームは引退前に一番頑張っているはずであろう3年のC選手がなげやりな態度で試合に臨んでいました。

そんなC子に対して後輩の選手達は顔色を伺うことで試合に集中することが出来ず、当然のように試合になりませんでした。先生はC子を呼び『やる気があるのか?』と問いただしましたが、なんとC子は『ありません』と答えコートを出てしまいました。

先生は常々『数少ない(3人)3年生に最後にいい思いをさせたい。いい締めくくりをさせたい』と言っていたので、そんなC子の態度にがっかりしたような顔をされましたが、しかたなしに(?)入れた二年生が入ったとたんにチームが変わったようにリズムが良くなりセットを取りつづけました。

誰が見てもあきらかにC子を使わないほうが良いだろう・・と思えるものでした。

私はそれでも不貞腐れながらもラインズマンをやっているC子を見ながら・・B先生はこの後どうするのか?と興味深く観察していましたが、その場ではそれ以上特別なことをしませんでした。 帰りにキャプテンとマネージャーを呼んで何か話しこんでいました。

こちらの方の選手達から『やっぱりC子さんがいない方がいいよね・・B先生が来て良かったね・・やっとはずしてくれた』と言う意味の言葉が聞こえて来るようでした。

その夜、練習試合をした先生達と夕食を共にしたさいに今日の一件についての話しがでました。

大方の先生はB先生に『C子をはずして正解ですね』と口々に言いました。それに対して先生は私達にこんな話をしてくれました。

「実は先日C子が私の所に来てこんなことを言ったのです。

『一年生の時は一生懸命練習して、その練習がつらくて他の人がやめていく中頑張って続けたものだから、二年になって三年が引退してからレギュラーにしてもらったものの、今年入った新入生の子達のほうが明らかに上手で、試合になると、どうしても自分がいるために負けるとしか思えない・・実際に今日だって私の失敗で点が相手に入っている。
あせればあせるほど失敗ばかりして足を引っ張っているのはわかっているけど・・レギュラーだってはずしてくれればいいのに・・・前の監督が私をレギュラーにしたから・・それに私に『下級生の指導しろ』なんて言われても・・バレーの下手な私が下級生に教えることなんて出来るわけがない。去年の先輩は上手で私らに色々教えてくれて、最後に勝ったから私達も応援してて嬉しかったけど・・どうせ私なんて・・』

と泣き出しました・・・ですので私は・」と言葉を続けようとしたとき先生の携帯がなりました。電話の主はC子のようでした。

B先生は『そうか、よし頑張ろう明日な・・俺も頑張るから・・あと5日だ』・・話の内容は当然我々にも理解できましたが、先生の次の言葉に私は感激したのです。

『C子なー ・・C子が下級生に残せるものは何だろう。C子が今日のことをみんなの前であやまったりするのはかっこ悪いと思うかもしれない、しかしな先生はC子がバレーが上手とか下手とかそんなことではなくて、必死に転げまわってボールに向かっていく、もっと言えばそのボールがとれてもとれなくても・・例え一生懸命打ったボールがネットに引っかかっても・・それが不格好のように思っても・・・そんなことは問題じゃないんだ。
『ボール』とそして『自分の弱き心』と格闘して、もがいている姿を見せることが、何よりも後輩に残せるものではないんだろうか?
そもそも一般に言う『かっこいい』とか『かっこ悪い』なんて言葉を先生は信じていないよ・・後輩が先輩の姿を見て心のそこから『すごい』そして『かっこいい』と言うのはどういうときなんだろう?
もしかしたら今日C子が先生に電話をくれる前に苦しんだこと、そしてこれからの5日間がもしかしたらC子が何時の日か『三年間バレーを続けて本当に良かった』と思えるようになると信じているよ」続けて『先生は人間が弱いもんだから今までもいつも『優勝するんだ』と自分に言い聞かせなければここまで来ることは出来なかったけど、『勝った』『負けた』なんかは本当はどうでも良かったのかもしれない・・・C子のように今の自分を乗り越えようとする沢山の子と巡り合えたことが・・バレーをやっていて良かったと思うことなんだ・・』  と続けたのです。

・・・電話を終えた先生は「話の途中で申し訳ありませんでしたC子からでした。C子が頑張ると言ってくれました」と嬉しそうに言ってくれました。

私は先生の話をつい盗み聞いてしまいましたが、やはり『選手一人、一人を大事にして、選手の可能性にすべてをかけることが出来る・・』こんな監督を一流と呼ぶのが本当なのだろうと・・幸せな気持ちになれました。

同時に三年生三人の中のあと二人キャプテンとマネージャーの練習後の活躍を想像できました。

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