『魂』を揺さぶる読み物
情熱そして魅力・・・by芭麗人さん
横須賀でのバレー生活の後、まさしく自分の夢(何もないところでコートを作り,生徒を説得してバレー部を作り、苦難の末全国大会に出場する。)といった学園ドラマ風な・・にはおあつらえ向きな、それこそ何もない静岡の片田舎の高校に運良く数学の教師として就職することができた私は、計画通りの出発を果たす事が出来た。
前の横須賀でのコーチ生活で述べたように、全くバレーを知らなかった、(勿論、今でもたいして知らないのであるが)私は当時10数年連続して全国出場していたI高校のA先生に教えを請いに行った。
さぞかし凄まじい練習をしているのだろうと、想像していたが、案に相違して、ほとんどが基本の練習の連続であった、《こんなチームで勝てるのであろうか、今年は地区大会を勝ち抜けないような選手しかいないのであろうか》こんな思いもしたし、自分のチームの練習とどこが違うのであろうか、本当はその中に強さの秘密があるのであろうか。
1週間通い詰めたが、その頃の私にはそれが何であるのか全くわからなかった。
情けない事に、私は先生の姿を見て、靴はリードマン(知っていますか?当時は結構流行っていました)ポロシャツはアディ○ス、短パンはジェ○ンクのテニス用のもの、そして時計はセイ○ー。ニ、三日の間にそれを買い揃えて、鏡の前で先生の口調や手振りを真似してみた。・・・そうすればチームは強くなるかもしれないそう思った。
(私はその程度の大ばか者である)
しかし、見学をさせて頂いた約束の1週間の最終日、おそらく今の私を作ったであろう言葉を先生から頂いた。
指導者講習会で聞きかじった、強いチームを作るための三つの条件(良い選手、良い指導者、良い環境)をあげて、「先生、私の所は学校の規模や方針そして力からいっても良い選手が集まる可能性はないと思います。体育館もありませんし、外のコートも私が石ころを毎日拾って作ったようなものですし、何よりも指導者の私がバレーを全く知りません。でも強いチームを作りたいのです。先生のように全国に行ってみたいのです。春の高校バレーに出場したいのです。・・・どうしても行きたいのです。いけるでしょうか。」
聞き様によっては全くばかげた質問をした。(もしかしたら、笑われるかもしれない。『くだらないことを言うな』と叱られるかもしれない。)
それに対して先生は暫く目を閉じて考えていたが、次に口を開いて出た言葉は『行けるでしょう。三つの条件などは後からついて来るものだ。今一番必要なのは今の君の情熱と、真剣に夢をかなえようとしているその姿の魅力だ、それが全てを動かして行くし、作っていく。君に恐れるものなど何もない。何時の日か必ず君の夢は叶えられると思う』
『君なら絶対やると思う、僕は信じているよ』
私の目を見ながら言って下さった。
私は感激で体が震えた、何故か涙が出てきた、そしてこの日からバレーの求道者となった。
それから色々なことがあった、延長コードを使って竹ざおの先に裸電球をつるした。
真冬にも生徒と一緒に半そで短パンで練習をした。風によって落ちボールを拾いに川に入った。
気がついたら12時近くになっていたこともあった。あまりにも内容が悪いので朝5時からの練習をしたこともあった。
それでもボールは思うようになってくれなかった。毎日バレーの神と話しをするためにボールを抱いて寝る事もあった。
やめたいと言う部員の家に何度も通った、それでも勝つことは出来なかった。
挫折、壁にぶつかることを、何度も繰り返すうちに自分なりの指導スタイルを見つけることが出来た。外で毎日泥んこになって練習をしている我々を見て、関係者が『体育館を作る時が来た』と、その為の募金活動が始められ、ほどなく体育館が与えられた。そ してそんな私の下に中学の監督が選手の進学を薦めてくれた。
そして、その日がきた。最後の一点が入り春高が決定した瞬間、あの日の先生の言葉が頭の中を駆け巡った。
『情熱、夢を持った人間の魅力』
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