『魂』を揺さぶる読み物



指導者の交代劇・・・by芭麗人さん



指導者の交代劇

沢山の交代劇を見てきました。

しかし現役監督時代あれだけ素晴らしいと言われてきた人でさえも、後進の指導者に対するその言葉は決して我々の耳に快いものではありませんでした。

むしろ見苦しく聞こえたのです。

『まだまだだな』  『まだ解かってないな』  『あれじゃあ育つ者も育たん』など・・

 それはいかにも「自分は素晴らしいことをして来た・・今の監督とは格が違う・」・・

そんなことを言いたいのでしょう。 そしてそんなチームが優勝すれば『俺だったらもっと違う形で優勝する。あのメンバーなら勝って当たり前・・勝ち方が悪い』

ある時には選手や父母に・チームの全てを委ねたはずの監督を飛び越えて指導らしきことをするのです。 そして不平不満分子が出れば近づいて『俺だったら・・』とやるのです。



言い方を変えれば 第三者から見れば『それはまるで足を引っ張りこそすれ・・・』。

私は常々こんな光景を当たり前の様に見てきたので、次にあげる稲葉先生の姿勢の素晴らしさに身体が震えたのです。



指導者として私のもっとも尊敬する故稲葉先生は広島崇徳高校の前前監督ですが。

先生のバレーにおける姿勢、生き方は私の全ての鑑です。

その中でも先生のこの逸話は私をいたく感激させました。

先生が監督の席を教え子でありコーチでもあった後進のK先生に譲り総監督になった時の話です。

先生はチームを完璧に仕上げてK先生にあとをまかせました。そのチームは先生が全てをかけて作り上げた最高のものでした・・そしてチームは抜群の強さでその年の全国大会で見事優勝を飾りました。・・・当然先生が育てたチームなのでマスコミ関係の方たちはその瞬間の先生の姿を撮るべく・・『優勝した今の気持ち』・・『教え子のK先生の初采配について』意見を求める為に・姿を探しました。

・・・ベンチの一番高い席にはいませんでした。それでは『当然ベンチの外で指揮をとっているのだろう』・・コートサイドを探しました・・見当たりませんでした。それとも『本部で・・』・これも・・・

    しかし先生は意外なところにいたのです。

(バレーの名門広島崇徳高校の応援は厳島神社のしゃもじを使ってのものでした)

その日先生は一般観客席の応援団の中に混じって、両手に持ったしゃもじをカチカチと鳴らしながら『頑張れ・頑張れ・崇徳高校』とやっていたというのです。

 そんな先生なのです、それでも『言葉を』と思ってマスコミが先生にインタビューしようとすると『選手もK先生も立派です。わしはチームを見とらんからようわからんですが、すごいチームです』とだけ・・。

先生は私の本当に尊敬する方であり神様であり、私はこんなことでも感激してしまい、涙が込み上げてきてしまうのです。

 私は常々先ほどのような光景を当たり前の様に見てきたので、稲葉先生の姿勢の素晴らしさに身体が震えたのです。もし自分がチームを他の者に譲るとしたらこんな風にありたい。常々そう思ってきたのですが・・。

  そんな私でしたが、あるとき似たような立場になりました。

様々な理由からそれまでコーチとして指導をしてくれていたT先生に後を頼んでチームを離れたのです。その時のチームは全国に行くばかりではなく、『全国でも上位に入るだろう』と巷でも言われていたものであったのでたまらなく寂しさを覚えました。

(実は心の中でこのチームで全国で勝つ事が出来たら、情熱も指導力もあるT先生に全てを托そうと心に決めてはいたのですが…)

 誰かに自分のしてきた事を認めて欲しい『やっぱり、N先生でないと・・』と言って欲しい。    そう考えてしまったのです。

 県の決勝戦を隠れて観に行った私の気持ちは『勝って欲しいのか、負けて欲しいのか』自分自身でも本当にわかりませんでした。

 私の心の中には負けて、みんなに『やっぱり…』と言って欲しい・・・。という悪魔が潜んでいたのです。・・・・・ 

  チームは優勝しました。

柱の陰でそれを見届けると足早に引き上げようとしましたが、選手の一人が私を見つけて追いかけてきました。複雑な気持ちの私はそれこそ逃げる様にしましたが、心のなかでは・・・追いついて『先生のおかげで…』と言って欲しいと思っていたのも事実です。  

    これが私の情けない姿なのです。

しかししばらく時がたった深夜テレビをつけて春高の県決勝のS学園の試合を、何かやりきれない気持ちでぼんやり観ていると、・・アナウンサーが『前監督のN先生観ていてくれていますか、T先生と選手はチームを離れたN先生に勝利を贈りたいと、毎日頑張ってきました。特にT先生は机の上の先生から送られたという励ましの手紙『踏まれても 耐えて忍べ 道柴の やがて花咲く 春が来たらん』という言葉を、今日は胸に抱いて試合に臨みました…今日S高校は春を迎えました』・・と絶叫しました。

  

  その時私は自分のおろかさ、情けなさを知り涙が出てきました。

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一見すると本書は、書店でよく見かける、大昔の常識をそのまま載せた入門書の仲間ようにも見えます。しかし、内容の誠実さは群を抜いて素晴らしいものがあります。

肩書きだけの入門書(元全日本など)とこの本とを同じようなものだと考えると、バレーボール人生において損をすることになるでしょう。

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『基本から戦術まで バレーボール』についての詳しい書評やコメントの投稿はこちら

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