スイングと体幹の動き(1/5)
前回、バックスイングを中心にバレーボールのスパイクスイングについて考え、パワーの発生に優れたサーキュラーアームスイングを紹介しました。しかし、このスイングに対する意見や批判の声もあります。中でも多かったものが「スイングの仕方がわからない、自分には出来ない」という意見でした。スイングのベースとなっている「スイングと体幹の動き」の関係について前回あまり詳しく述べることが出来ませんでした。今回はこの点からもう一度スイングについて考えたいと思います。
体幹は力の発生の場
なぜ、体幹の動きにこだわるかといえば体幹は人がものを投げたり、打ったりする運動の「パワーの源(みなもと)」だからです。下の絵は「やり投げ」に使われる筋を描いたものです。
肩や腕の筋肉だけでなく下半身や体幹の筋肉を使ってやりを投げていることがわかります。
野球の投手がボールを肩から手までの腕だけで投げると仮定した場合、計算上では競輪選手の太ももぐらいの太い筋肉が腕についている必要があります。これはもちろんあり得ない事ですが、その反面、体幹の力が必要なことをあらわしています。実験的に胴体を固定して上肢だけでボールを投げると固定していない状態の53%までボールの速度が低下する調査(「投げる科学」大修館書店 桜井伸二編著より)があります。投げ動作はおよそ半分まで体幹の力を使っていることになります。空中でスイングするバレーボールのスパイクでは地上でステップするボール投げと同じ運動とは言えないのですが、体幹の力がボールに勢いを与えていることに変わりはありません。
体幹の動き=三つの回転運動
体幹の動きには三種類の動きがあります。これは体を貫く三本の軸の回りの回転運動となっています。
三本の軸は頭から足に抜ける縦軸、腰の部分を左右に貫く横軸、前後に貫く前後軸の三つです。
縦軸回りの回転を回旋と呼びます。上半身(両胸)と下半身(腰)に回旋の角度に差がある場合を特に「ひねり(捻り)」と呼びます。
横軸回りの回転を「後屈(伸展)」及び「前屈(屈曲)」と呼びます。後屈は「反り」と呼ばれる時もあります。
前後軸回りの回転を側屈と呼びます。あるいは横曲げと言った方が分かりやすいでしょう。
スイング動作は体幹の動きからスタートする!
バレーボール学会の学会誌に掲載されている「スパイク理論に関する研究 −フォアスイングについて−」(都澤凡夫・塚本正仁 バレーボール研究,Vol.1No.1,pp.9-15,1999)からのイラストです。
図1 反り動作でのバックスイング終了 | 図2 ねじり動作でのバックスイ ング終了 | 図3 “反り”と“ねじり”の複合動作でのバックスイング終了 |
これは「バックスイング」について解説しているイラストですが、「反り」と「ねじり」という言葉で体幹の動きについても触れています。スイングについてキチンと考えようとするならば、このように体幹の動きを抜きにしては考えられないのです。
スパイク動作のスタートはもちろん助走からです。では、ボールを打つスイング動作はどうでしょうか?「ストレートアームスイング」「ボウアンドアロウアームスイング」「サーキュラースイング」と3種類のスイングについて述べ、それぞれにおける体幹の動きを観察してバックスイングが異なれば体幹の動きも異なっていることを示しました。
http://www.geocities.co.jp/Athlete-Athene/7907/kikou/spikept/spikept5.html
どのスイングであっても必ず体幹が腕よりも先に動きはじめます。「スイング動作は体幹の動きからスタートする」と考えてよさそうです。
「反り」と「ひねり」
力を発揮するときに体幹の動きは前述した三種類の動きの内の「反り」と「ひねり」という二つの動きを使います。厳密には反ったり、ひねったりした後にその動きを元に戻す動きがボールを投げたり、打つ時の力となります。(それぞれを「反り戻し」、「ひねり戻し」と呼ぶことにしましょう。)
「反り」が一番大事?
バレーボールのスパイクにおいては縦軸方向の「ひねり」と「ひねり戻し」による力の発生よりも「反り」動作の重要性が強調されて来たように思われます。反る動きから元に戻す「反り戻し」こそがボールを強く飛ばす力であると説明している指導書を昔からよく目にします。典型的な例として某書にあった「バックスイングで体は弓なりに反り、打ったあとは‘く’の字になるぐらいに全身を使う」といった表現です。しかし、「ひねり」が大事であると書いた本を目にしたことはほとんどといっていいほどありません。
スポーツ技術を扱った本に出て来た写真ですが、写真の解説に「身体を反らせて力をためきった状態」とあります。しかし、この写真のフォームが単に体を反らせている動作に見えるでしょうか?この写真の選手の動きには反り動作だけでなく、右まわりの回旋による「ひねり」と左への「側屈」もあります。なぜ他の動きを無視して反り動作だけをことさらに強調するのでしょうか? 説明をする前から「反りが大事である」という先入観に基づいて運動を眺めているように思えてなりません。
1 2 3 4 5 次のページヘ