全盛期のソ連が採用していたと言う「スタックブロック」について、suis annex管理人のT.wさんに以下のようにメールにて質問したところ、実に詳しく、わかりやすい解答を頂きましたのでここに掲載致します。T.wさんありがとうございます。
たれいらんからの質問
「スタックブロック」というのは昔ロシアナショナルチームがやっていたというブロッカーがスパイカーを追いかけてポジションを入れ替わったりするマンツーマンブロックのことでしょうか?
つまり、マンツーマンコミットブロックの一形態としてスパイカーを最後まで追いかけるのが「スタック」で、反対概念が「マークを受け渡す」形式のマンツーマンコミットブロックだと考えて良いのでしょうか?
さらに言い換えれば、わたしのHPでマンツーマンブロックと言っているものは実はスタックブロックのことで、ゾーンコミットブロックと言っているものは実は「マークを受け渡すマンツーマンコミットブロック」のことなんでしょうか?
T.wさんの解答
確かに、今のバレーのブロックシステムの特徴である、リード・コミット・バンチ・スタック...という言葉には、それぞれの定義に「次元」の違いがあり、たれいらんさんがHPで説明されているように
1.リード(=シーアンドレスポンス)かコミットか
2.ゾーンかマンツーマンか
3.バンチかスプレッドか
という、別々の視点で捉えるのがいいと思います。
で、ここからはあくまで「私個人の」捉え方ですので、正しいという保証はありません。まぁ実際、例えば、寺廻さんと田中幹保さんでも、ブロックシステムの捉え方には若干違いがあるようですので、これが「唯一の」という真実はないのかもしれません。
私は「スタック」というのは、この3つの視点の中では、どれにも入らないかなと思います。というか、この間のたれいらんさんのメールで
つまり、マンツーマンコミットブロックの一形態として
と書かれているように、1〜3を組み合わせたブロックシステムの1形態だと私も思います。
1. でいうと、コミット
3. でいうと、バンチ
ここまではいいのですが、2. が微妙ですね〜。
スタックはご指摘のとおり、ソ連が一時盛んに取り組んでいた方法で、日本でもNECがまだ日本電気と呼ばれていた頃(泉水選手が新人ぐらいの頃、監督はもちろん寺廻さんでした)に採用していたシステムです。
「スタック」という言葉の由来は、おそらくはパソコン用語でウインドウの「スタック配列」というのと同じだと思います。スタック配列というと「ウインドウが少しずつずれながら、重なり合っている配列」のことですよね。つまり、概念的には「3.」の範疇で、「バンチかスプレッドかスタックか」というのが正しいのかもしれません。
で、どのように「重なり合うか」といえば、センターブロッカーがピッタリネットに張り付いていて、両サイドのブロッカーは、センターブロッカーの真横ではなく、一歩下がった状態(つまりネットから若干離れた状態)で構えているという状態です。つまりセンターブロッカーの斜め後ろにいる、という感じですね。
最近これを採用しているチームはないので、私も記憶が定かではないですが、必ずしも3人ともが「重なり合って」いるとは限らず、例えば、ライトブロッカーはスプレッドで相手レフトエースをコミットでマークし、センターブロッカーとレフトブロッカーだけが「重なり合って」いるというようなケースもあると思います。
なぜこのようなスタイルを取るかというと、3人のブロックのつき方が非常に特徴的だからです。まず、相手の速攻には、どのようなケースであれ、必ずセンターブロッカーがコミットで跳びにいきます。「一人一殺」といった感じですね。相手のレフト側の選手がBやロングBに入るというように、かなりアンテナ近くで速攻を打つ場合でも、「スタック」で3人が構えていれば、センターブロッカーが両サイドのブロッカーに邪魔されることなくアンテナ近くまでスムーズに移動していって「フロントコミット」が可能なわけです。
一方、両サイドのブロッカーは、時間差等のアタックに必ず2枚で跳びにいきます。センターブロッカーの斜め後ろに構えているので、速攻と交差する時間差であっても、センターブロッカーをスムーズに飛び越えてブロックにいくことが可能なわけですね。
つまり、マンツーマンコミットブロックの一形態としてスパイカーを最後まで追いかけるのが「スタック」で、反対概念が「マークを受け渡す」形式のマンツーマンコミットブロックだと考えて良いのでしょうか?
上の説明でわかるとおり、このたれいらんさんの理解の仕方はある程度、私の理解と近いものがあると思います。ただ、若干違うかな?と思う点は...
例えば、相手チームの攻撃が、ライト側の選手がCorDクイックに、レフト側の選手が平行に開いてセンターの選手が中央で時間差(ただし前セミなのかライト側の選手の速攻よりもバックで打つセミに回るのかわからない状態)に入ろうとしているとします。
この場合、スタックブロックであれば、当然ライト側の選手の速攻にセンターブロッカーがフロントコミットで対応し、時間差に上がれば、前セミであれ、バックセミであれ、両サイドのブロッカーが2枚でブロックにいくということになります。
一方、「マンツーマンコミットブロック」の場合、「最後まで追いかけようがマークを受け渡そうが」最初に「誰が誰をマークするか」がとりあえず決まるわけですよね。で、このケースの場合、最初の時点では「レフトブロッカーがライト側の選手の速攻」のマークにいくのではないかと思うのですが、どうでしょう? で、「最後まで追いかける場合」は、もしセンターの時間差がバックセミだった場合に、センターブロッカーがレフトブロッカーを飛び越えて1枚だけでブロックにいくことになり、「マークを受け渡す場合」は、センターがバックに回ったのを確認した時点で、センターブロッカーとレフトブロッカーがマークを交換し、センターブロッカーがライトの速攻に、レフトブロッカーがセンターの時間差にそれぞれやはり1枚でブロックにいくというものだと私は理解しています。
つまり「マンツーマンコミットブロック」があくまで「1対1」が基本になっているのに対し、「スタック」ブロックは、速攻に対しては「1対1」ですが、時間差に対しては、「バンチ&リード」の意識に近いように感じます。
なお、この「スタックブロック」は両サイドのブロッカーの負担が相当に大きいということが、浸透しなかった原因ではないかと考えています。
T,wさんの解答(2)
ところでスタックブロックでは、レフトとライトのどちらの平行にもサイドブロッカーの二人で二枚ブロックを試みるんですよね。すごいことを考えるもんですね。
ええ、そうなんですよね〜。この前のメールで「両サイドのブロッカーの負担が大きすぎて」と書いたのはこの点ですね。
でも、今の時代の「高速平行バレー」をイメージしてスタックブロックを考えてはいけないと思うんです。当時の男子バレー界では、やはり何と言ってもソ連の敵はあくまで「アメリカ」であった点が重要だと思います。
当時のアメリカは、徹底的に「2人サーブカット制」にこだわっていました。確かにそれでレフト以外の選手の負担は軽くなって良いのですが、たれいらんさんなら、少し紙をとって手を動かせばわかることだと思いますが、「2人サーブカット制」を貫くと、前衛レフトが打てるアタックコンビの種類というのは非常に制約されるし、ましてや今のような「高速の平行」を打つのは絶望的なんですよね。
実際当時のアメリカのレフト、カーチ=キライ・ストブルトリックの打っていたアタックというのはライト側でカットしたあと、大きく回り込んで打つレフトオープンか、その逆で、コート中央でカットしてライト側に回り込む、要するにセンターの陰に隠れて、中央から最後までどちらに回るかわからないというような、いわゆる昔で言うところの「移動攻撃」的なものがほとんどでした。
ですから、スタックブロックもそれなりに理にかなっていたんですよね〜。もちろん今のような時代では、とてもスタックではやっていけないですけどね。
(2000年4月)