スイングにおけるもう一つの回旋(上腕の内旋と外旋)
肩と肘の間の上腕も骨の軸回りの回旋運動をします。この回旋にも二つの方向があり、前の方向に回旋する(手のひらを下に向ける)ことを内旋、後ろに回旋する(手のひらを上に向ける)ことを外旋と呼んでいます。
上腕の回旋前から見たところ | 横から見たところ | ||||
二人の選手の手のひらの向きに注目して下さい。打った後の手のひらが顔と反対の外側の方向に向いています。前腕の回内だけでは手のひらは下(床面の方向に)を向いているはずですから、前腕の回内よりさらに回旋している動きで、前腕の回内だけでは説明出来ません。つまり、この動きは上腕を回旋しなければ出来ない動きです。正しく記載するとスパイクの腕の動きは前腕が回内している状態で、さらに上腕が内旋している動きと言えます。
左の画像はボールヒットの瞬間で右はボールヒット後です。ボールヒットやスナップを考える時にはこの腕の回旋の影響を考えなければいけないのです。
スイング動作が前腕や上腕の回旋動作を元にして成り立っている事は重要な事で、パワーの発揮には欠かせない動作です。その問題については別の機会に譲ります。
スナップの正体
ボールが手に当たる部位、当たり方、腕の二つの回旋を考えていくと瞬間的に行われているボールヒットが見えて来るように思われます。
左の絵はボールに当たった時の力の入り方を想定した模式図です。ボールは灰色で示したところに触れますが特に黒い所に強く当たります。力は赤矢印で示すように手根部の外側から内側を通り指根部を通り指先に抜けていきます。
手首の背屈と掌屈を使った「いわゆるスナップ動作」をすると手のひらはボールに「手根→指根→指」の順にヒットしていきますから、上の絵のような手の当たりかたが実現できます。しかし、選手の中には腕のスイングをヒット時点で止めて、「いわゆるスナップ動作」に頼ってボールを打ち、腕を振り切らない打ちかたをしている場合があります。スイング動作で加速した腕の速度は腕のスイングを止めてしまえば失われますから、勢いはボールに伝わらずスパイクボールの勢いは増して行きません。「スナップを利かせて打て」ということを強調すると腕のスイングを止めるスイングのエネルギーを「捨てる」打ち方になってしまう場合があることに注意しなければなりません。少し専門的な解剖学の話になりますが、前腕を回内する回内筋と手首を掌屈する手首の屈筋は発生学的にも近い関係にある筋肉で手首を掌屈すると協同作用で前腕の回内運動が増強します。そう考えるとスナップは全く不要のものではありませんが、頼るべきものでもないと思います。
バドミントンの世界では以前よりこの問題に気づいている指導者もいて、手首のスナップ運動で打つ打ちかたを「テコ編成型運動」、回内、内旋を使った打ち方を「車輪車軸編成型運動」として区別して指導している本があり、手首のスナップに頼る「テコ編成型運動」では大きな力が発揮出来ないとしています。(「基本レッスン バドミントン」阿部一佳、渡辺雅弘著 大修館書店)
また、野球のピッチングに関しては「ピッチングの正体」(手塚一志著 ベースボール・マガジン社)に「二重振り子運動」「二重回旋運動」と二つのピッチング法について書いてあることも同類の事だと思います。
サントリーのジルソン選手。
ボールヒットの前後の手首の掌屈はみられません。でもスパイクの破壊力はご存じの通りです。
ジルソン選手を見て思うのは彼の破壊力の高いスパイクは「いわゆるスナップ動作」を使わないがために生み出されているのではないかという事です。スナップ動作をしない時はボールヒットの時に肩から手の間の腕の部分は一本の棒(バット)のように一塊となっていて、硬く強い状態です。(工学的に言えば剛性が高まっている状態)この状態でヒットした方が当然ボールの勢いは増すはずです。もちろんジルソン選手の体力とフォームから生まれているボールヒットの方法でこれをもって一般化は出来ませんが、「いわゆるスナップ動作」が必要条件でないことを示しています。
前のページに戻る 次のページ(最終)へ