手にどのようにボールが当たっているか
手のどこに当たっているかはだいたいわかって来ました。ではどのように当たっていき、ボールヒットが行われているのでしょうか？これは身体の使い方の問題です。
ＪＴの河野選手のスパイクフォーム。正面から観察してみます。
手の部分だけを拡大してみると
打ち終わった後に手首が掌屈して、「いわゆるスナップ」が行われています。しかし、手の動きはそれだけではないのです。もっと注目して欲しいのはスイングするにしたがって手のひらが顔と反対の外側を向いている事です。肘に目を向けると骨の出っ張った部分（肘頭…赤線で示す部分）がスイングにしたがって視野の左の方に移動して５コマ目からは見えなくなっています。ボールにヒットする時に手首が掌屈するとともに手のひらの面を外側に向けるような動きがあることが分かります。これらの動きは純粋な手関節の動きだけでは分からない動きで、もっと腕の上の部分の動きも考えなければなりません。ボールヒットは腕のスイングの最終段階ですから手首の動きを見ているだけでは「木を見て森を見ず」となってしまい、本質は見えて来ないと思います。
スイング動作の二つの「回旋」
肘頭が上の写真のように視野の左に移動していく動きは肩から手にかけての腕が骨の軸方向に回旋していることをあらわしています。腕の回旋には肘の上と下で二種類あり
（1）肘と手の間の前腕が回旋する。（回内と回外）
（2）肩と肘の間の上腕が回旋する。（内旋と外旋）
場合があります。肩や肘の関節はドアの蝶番のような単純な閉じたり、開いたりの関節ではなく回旋の動きを伴う関節です。スパイクスイングとこの二つの動きの関係を考えてみます。
前腕の回旋（回内−回外運動）
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前腕の回旋運動には回内と回外の二つがあります。左端のように手のひらの面を下に向ける前腕の回旋を「回内」と呼びます。反対に右端の絵は手のひらを上に向ける前腕の回旋で「回外」と呼びます。「回内」は毬をつく時の手の動きですし「回外」はお菓子やお金をもらう時の手の動きと覚えておいて下さい。「回内」と「回外」は正反対の動きです。
前腕骨骨折の後遺症で悩んでいる方がいました。手首がうまく動かないのが悩みでした。「どういう時に困りますか？」と聞くと、「駅で電車のキップを買おうとしてもコインを小銭入れから出してキップの自販機に入れられない。」という返事が返って来ました。混んでいる時は小銭入れを後ろに並んでいる人に手渡してコインを入れてもらっていたのだそうです。診察すると骨は真っ直ぐに治っていますし、手首の背屈も掌屈も十分に可能でした。ただ、手のひらが上を向いたままで、下を向けることが出来ないのです。（これでどんなに小銭入れの中のコインが取り出しにくいか自分でやってみて下さい。）この話で分かるように手の回旋運動が起きる場所は前腕の部分です。そのため前腕骨骨折の後遺症として時に回内や回外の制限が起きるのです。
日常での回内と回外運動
「カバンディ 関節の生理学 �犠綮茵廖憤綮�薬出版）より
日常生活で何気なく手を使っている時でも回内、回外の動きは必ず入って来ます。「ドアのノブを回す。」「ドライバーでネジを締める。」「茶碗を持つ。」「お箸でご飯を口の中に入れる。」「フォークとナイフでステーキを食べる。」「髪にブラシをかける。」「シャツのボタンをかける。」などの手首を捻る動作をを思い起こして下さい。ヒトは回内、回外により手を思い通りの所に動かすことが出来ます。サルは回内−回外運動が貧弱であり、ヒトのように道具を作ったり、使用したり出来ない事が手の発達における人類との大きな違いであると言われています。「器用さ」につながるこれらの動きは小さい子供には難しいもので訓練や練習が必要なものばかりです。
（子供に「キラキラ星（回内−回外の連続運動です）」のお遊戯をさせてみるとわかりますが、小さい子供ではかなりギクシャクした動きとなります。）